肝胆膵外科 診療案内胆石・胆嚢炎の治療
胆石・胆嚢炎の治療
1.胆嚢とは
胆嚢について
肝臓にはいくつかの重要な働きがありますが、その中に胆汁を作る働きがあります。胆汁は肝臓を出ると胆管を通って十二指腸へと流れていきます。十二指腸内で食物と混ざり合い、食物中に含まれる脂肪分を消化します(消化とは栄養素が吸収されやすいよう分解すること)。胃や十二指腸に食物がなければ、胆汁は胆嚢内に貯留して胆嚢が膨らみます。そして、胃内に食物がたまると、胆嚢が収縮して胆汁が効率的に流れる仕組みになっています。
2.胆石、胆嚢炎
胆石症
何らかの原因により胆嚢の収縮機能が低下すると、胆嚢内にうっ滞して濃縮された胆汁が泥→砂→石と固形化することがあります。こうしてできた固形物を胆石と呼びます。胆石は、何らかの症状(胆石発作;上腹部や背部の痛み・吐き気など)がある場合に手術の適応となります。胆石があっても無症状の場合は経過観察するのが標準的な考え方ですが(注1)、胆嚢がんの合併が疑われる場合には、たとえ無症状でも手術をお勧めすることがあります(注2)。
注1:無症状で経過している胆石が何らかの症状を発現する確率は、1年に1~4%ずつで20年間では10~30%と言われています。つまり、胆石があっても大半の方が何年も無症状のまま過ごされるようです。ただし、胆石が原因で高熱や激痛を伴う急性胆嚢炎を引き起こしたり、胆石が胆管に流れ落ちることがあります(総胆管結石)。総胆管結石は胆管炎や膵炎を引き起こすことがあり、これらは生命に危険を及ぼすほど重篤化することがあります。
注2:胆嚢がんになった胆嚢の中にはしばしば胆石が含まれています。しかし、これまでの調査や研究では、胆石ががんの発生率を上昇させるということは証明されていません。
急性胆嚢炎
おもに胆石が原因で胆嚢に急性の炎症が起こった状態です。急激な炎症により発症し、強い症状(腹痛・発熱・嘔気・嘔吐など)を伴います。また、何らかの重症疾患により食事を摂取していない患者さんでは胆石が無くても胆嚢の動きが悪いために急性胆嚢炎を起こすことがあります。急性胆嚢炎は重症化すると命に関わることもあります。
当科では、急性胆嚢炎に対する早期手術を積極的に行っています。診断がつき次第当日または翌日に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行います。当科では、豊富な経験と高い技術を駆使して難度の高い状態の急性胆嚢炎も含めて、ほとんどすべての手術を腹腔鏡下に安全に完遂しています。腹腔鏡下胆嚢摘出術後は4日~7日程度で退院して、短期間で社会復帰が可能です。
総胆管結石、急性胆管炎
胆嚢の中の胆石が胆管に流れ落ちて、さまざまな症状を引き起こすことがあります。胆管内の胆石は総胆管結石と呼ばれます。肝臓から十二指腸への胆汁の流れが悪くなくなるので、黄疸(皮膚や眼が黄色くなる)がでたり、細菌感染を起こして急性胆管炎に至ることがあります。また、十二指腸のすぐ手前に詰まった胆石は膵液の流れにも影響することがあり、急性膵炎を同時に発症することがあります。急性胆管炎や急性膵炎は、時に生命に関わるほど重篤化することがあります。そのため総胆管結石が見つかった場合、症状が無くても除去しておくことが勧められます。総胆管結石の除去は、内視鏡(ERCP)か手術(腹腔鏡下手術も可能)のいずれかで行います。当科ではいずれの方法も施行可能で、結石の大きさや処置のやりやすさ、全身状態などにより結石の除去方法を決定しています。
慢性胆嚢炎
急性胆嚢炎を起こした場合、多くの患者さんは薬による治療だけで症状が落ち着いてしまいます。しかし、胆嚢炎を起こすと、炎症による影響で胆嚢の壁が厚く硬くなります。そのため胆嚢の拡張・収縮機能が低下します。この様な状態を慢性胆嚢炎と呼びます。慢性胆嚢炎は胆嚢がんとの鑑別が重要です。一般的に慢性胆嚢炎と胆嚢がんの鑑別診断は超音波(エコー)検査やCT検査を用いて行われますが、胆嚢がんではないことを十分に確認できない場合には手術により切除した実物で病理組織検査を行うことによって判断する必要があります。また、慢性胆嚢炎になると、周囲の臓器(胃・十二指腸・大腸など)との癒着が起きていて手術が大掛かりになったり、胆嚢そのものが硬くなっているために肝臓から切り離す際に肝臓を損傷して重篤な合併症を引き起こすリスクが高くなります。
胆嚢ポリープ
胆嚢内にできる良性腫瘍ですが、大きさが1cm以上の場合や、増大傾向を認める場合には悪性(胆嚢がん)である可能性があります。そのため、これらは手術により切除した実物で病理組織検査を行うことによって診断する必要があります。一方で、大きさ5mm以下の小さなポリープやコレステロールポリープ(胆汁に含まれるコレステロールの沈着によりできるもの)は3~6ヶ月毎の経過観察でよく、急いで手術をする必要はありません。
胆嚢腺筋(腫)症(アデノミオマトーシス)
胆嚢の壁を構成する粘膜と筋層の一部に厚みのある部分が形成されるもので腫瘍性病変(がんやポリープ)とは異なる疾患です。しかし、エコー検査やCT検査で指摘される胆嚢壁の厚みは腫瘍性病変との鑑別診断が難しい場合があります。エコー検査やCT検査だけでは腫瘍性病変との鑑別が十分にできない場合には、手術により切除した実物で病理組織検査を行うことによって診断する必要があります。また、胆嚢腺筋症は胆嚢の収縮機能を低下させるため、胆汁の停滞により胆石を形成したり、胆石が無くても胆嚢の異常収縮による痙攣発作(上腹部や背部の痛み・吐き気などの症状)の原因となったりします。胆石合併の有無に関わらず症状がある場合には手術の適応となることがあります。
3.腹腔鏡下手術について
腹腔鏡下胆嚢摘出術
全身麻酔下に行います。はじめに臍に約1cmの孔を開けて小開腹します。そこから炭酸ガスを送気し、お腹をドーム球場のように膨らませます。腹腔鏡(カメラ)を挿入してお腹の内部を観察します。この時、胆嚢や腸の癒着が高度であれば開腹手術に切り替えることもあります。引き続き5mm~1cm大の穴を3ヶ所開けてそこから細長い手術器具を挿入し、外科医はモニターを見ながら手術を行います。
具体的には、胆嚢管と胆嚢動脈を確認し、クリップをかけて切離し、胆嚢を肝臓から剥がして臍の穴から摘出します。必要に応じて、ビニールの管(ドレーン)を腹壁の穴のひとつから胆嚢のあった付近に向けて留置します。これは術後の出血や胆汁の漏れに備えて、血液や胆汁が体外に排出できるようにするためのものです。その他の穴を縫い閉じて、手術は終了です。穴は数カ月以内に吸収される糸で内側から縫いますので抜糸は要りません。
なお、手術中に安全性や確実性が確保しにくい場合(出血量が多かったり、周囲の臓器が傷ついた場合など)には開腹手術に切り替えることがありますのであらかじめご了承ください。ただし、当科では高い技術と豊富な経験を持つ本田五郎医師の指導のもと、すべてのスタッフが高難度なケースにも柔軟に対応できるよう標準的な手術手技を習得しており、ほぼすべての患者さんにおいて開腹手術に切り替えることなく、かつ安全に手術を完遂しています。
手術時間は通常1~2時間です。脂肪の多さ、胆管の走行の個人差、炎症の度合いにより、予定時間は変わります。実際には、病室を出て手術室に移動し、麻酔科の医師が全身麻酔をかけて執刀開始するまでに約40分、手術が終了して麻酔を覚まし、病室に帰ってくるまでに約30~40分程かかりますので、入室から帰室までの全体に要する時間は2~3時間となります。
腹腔鏡下総胆管切開結石
総胆管結石に対する手術では、胆嚢の近くで胆管を切開し内部の結石を除去します。切開した胆管は腹腔鏡下に縫い閉じます。その際に、細いチューブ(Cチューブ)を胆管内に留置し手術を終了します。このチューブから1-2日後に造影検査を行い、胆管が狭くなっていないこと、残った結石がないことを確認して抜去します。その後問題が無ければ、術後4-5日目に退院します。
4. これまでの成績および診療体制
胆石症や急性胆嚢炎など、胆嚢の良性疾患について年間100件程度の手術を行っています。2020年12月に本田五郎医師(日本胆道学会認定指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医)、大目祐介医師(日本内視鏡外科学会技術認定医)による指導体制で「急性胆嚢炎レスキュー班」を立ち上げました。急性胆嚢炎・胆石発作などに即時対応する体制です。心臓疾患、透析中など持病をお持ちの方にも専門科と協力して対応しています。